日本人のしきたり、およばれのタブー

受け継がれていく、日本人のしきたり

例えば、脱いだ靴をどうするか、座布団をどう扱うか......。子供が遊びにくると、何気ないシーンでその子の家庭の様子が現れます。そんなとき「親の顔が見てみたい」と言われてしまうのは、それが躾(しつけ)の表れだから。 親子揃っておよばれした時は、我が子のふるまいにハラハラすることもありますね(←実感)。

これは大人になっても同様で、「どういう躾をされてきたの」と言われ続けてしまいますから、親ってタイヘン!?

特に、日本には様々なしきたりがあり、知らずにいると無礼者になっていることもあります。そこで、訪問時にも役立つ、基本的な日本人のしきたりを3つご紹介いたします。しきたりにはそれ相応の理由があるので、それを理解すればふるまい方も変わりますよ。子育て世代は、きちんと我が子に教えられますか?

揃えないのはお行儀が悪い。では、どうやって揃えたらいいのでしょう?



正しい靴の脱ぎ方は?

脱いだ靴はきちんと揃える、これは常識ですね。しかし、その揃え方を間違えている方が多いようです。

・後ろを向いて靴を脱ぐのはNGです!

最初から後ろを向いて脱げば揃える手間を省けますが、お家の方にお尻を向ける(背中を向ける)のは失礼にあたります。

後ろを向いて脱ぐのは、お行儀が悪いのです。

・正しい脱ぎ方は、次の3ステップです!

1:そのまま前を向いて脱いで上がります。
2:家人に対してお尻を向けないよう、後ろ向きではなく少し斜め向きに屈みます。
3:靴の向きを変え、家人から遠いほう(またはシューズボックス側)の隅に寄せて置きます。

まずは正面を向いて脱ぎましょう。

面倒臭いと思うかもしれませんが、来て早々にお尻を向けたり、玄関の真ん中に靴を置いたりするのは失礼なこと。人前で靴を脱ぐのは日常茶飯事なので、日頃から正しい作法を身につけておくと、うっかりミスが防げます

お家の方にお尻を向けないよう、少し斜め向きに。女の子は膝をつくと美しい所作になります。



覚えておきたい、例外があります

ただし、お店の小上がりなど上がり框(かまち)が高い場合は、後ろを向いて脱いでも構いません。その理由は、靴の向きを変えるために屈んでお尻を突き出すほうが下品だからです。お店の方が揃えてくださる場合には、前を向いて脱ぎ、あとはお任せしてもいいでしょう。



なぜ、畳の縁や敷居を踏んではいけないの?

玄関の引き戸、襖(ふすま)、障子など、一般家庭にも様々な敷居がありますし、畳には縁がありますね。昔からこれらを踏んではいけないと言われているのは、幾つかの理由があります。

昔から「畳の縁や敷居を踏んではいけない」といいますが、なぜでしょう?

【身を守るための戒め】
昔は、忍びの者が座の下に忍びこみ、畳の縁や敷居の隙間から漏れる光で相手の所在を確かめ、タイミングを見はからって刃を刺すこともありました。こうして命を落とすことは武士として大変恥ずべきことだったため、それを避けるための戒めが、和室のマナーになりました。

【家や家人の象徴として重んじる】
「敷居をまたぐ」「敷居が高い」というように、敷居はその家の象徴なので、それを踏むことは家や家人を踏みつけることと同じと考えます。また、畳の縁はその家の格式を表しており、畳の縁に家紋を入れることも多く、それを踏むことはご先祖様や家人の顔を踏むことになり、大変失礼なことなのです。動植物の柄は生き物を踏みつけることにも通じます。

【空間様式を崩さない】
敷居には世間と家、部屋と廊下などを隔てる結界(境界のこと)の役目があり、畳の縁にはお客様と主人を区別する結界の意味があります。こうした結界を踏むことは空間様式を崩すことになるため、踏んではいけないのです。

【家を大切にする】
敷居を踏むと磨り減ってしまいますし、家の建てつけが歪むこともあります。畳の縁も踏めば傷んでしまいますね(高級品ほどデリケートな素材です)。そこで、その家を大切にする気持ちの表れとして、敷居や畳の縁を踏まないようにするのです。

どの理由も納得できるものですが、お子さんには年齢に合わせて説明してあげるといいでしょう。



なぜ、座布団を踏んではいけないの?

かつて、高貴な人しか座布団を使うことができませんでした。その名残りで、座布団にはお客様を敬いもてなすという意味が込められています。

従って、座布団を踏みつけることはもてなしの心を踏みにじる行為となり、大変失礼なことなのです。

なにげなく踏んでしまいがちですが...これは無礼なことなのです。



座布団のマナー

こうした成り立ちを考えると、次のような座布団のマナーも理解できるでしょう。

  • 先方にすすめられる前に座布団に座らない
  • 座る際はにじって座る
  • 挨拶するときは座布団からおりる
  • 座布団の位置を勝手に動かさない
  • 座布団を勝手に裏返さない
  • 座布団は正面を向けてすすめる

しびれない座り方や足を崩すタイミングも覚えておきましょう。



いずれもその場に応じて臨機応変に対処しますが、知っているのと知らないのとでは大違い。大人も子供も、まずは知ることが大事ですね。きちんと理由を知っていれば、どんなシーンでも的確に対処できるようになるでしょう。





この記事の担当ガイド
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暮らしの歳時記 ガイド 

三浦 康子

みうら やすこ 

和文化研究家、ライフコーディネーター。わかりやすい解説と洒落た提案が支持され、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ウェブ、講演、商品企画などで活躍中。様々な文化プロジェクトに携わり、子育て世代に「行事育」を提唱している。順天堂大学非常勤講師。著書、監修書多数。

 

 

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